民主県政の会ニュース215号

医療崩壊を防ぎ、必要なコロナ対策を迅速に

保土田 毅
埼玉県医療介護労働組合連合会執行委員

新型コロナウイルス感染症が第2波を迎えています。PCR検査の拡大や感染者の保護・隔離、治療など医療機関や従事者への負担が増え医療崩壊の危機が現実味を帯びています。埼玉医労連の保土田さんに、いまコロナ感染拡大で医療現場に起きている事、その問題点と解決の方向について報告していただきました。

新型コロナウイルス感染症が緊急事態宣言発出の時期を上回る勢いで拡大しています。県は医療分野の感染症対策として再拡大期に備えた体制づくりをすすめています。①検査体制の強化、②病床の確保、③宿泊療養施設の確保、④救急搬送体制の構築、⑤医療物資の確保(備蓄)の5つが柱です(表1)。
4・5月に緊急事態が宣言された理由のひとつは「医療崩壊を防ぐ」ことでした。しかし感染症拡大を受けた大規模な減収で、日本の医療・介護事業は崩壊の危機に瀕しています。職員や入院患者の陽性確認による新規入院患者受け入れ停止や救急外来などの休止、感染患者や疑似症を受け入れるための空床確保、外来患者の受診抑制、健診の休止などにより経営はかつてないほど深刻な状態に陥り、数多くの医療機関が経営破たんの危機に立たされています。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会による4月の調査では、1307病院の医業収益が前年比10・5%減少、全国自治体病院協議会の調査(286病院回答)でも患者急減で前年比83・6%の減になっています。私の勤める医療生協さいたまは、今年4月から6月の収益が前年同時期の約88・6%に減少し、計上剰余で約5億2063万円の赤字となっています。これは医療機関にとっては致命的です。医療機関は元々薄利のため手持ち資金が少なく、大幅な減収に対応する経営力がありません。全日本民医連が4月に行なった緊急調査では、対象133法人中108法人(81%)が今年度中に「資金不足」になると予想、手持ち資金の流失による資金ショートか、返済見通しのない借金をするほかないという状況です。
日本病院会の会長は「これまで病院は診療報酬などの影響で、ボクシングで言えば、たくさんのパンチをもらってグロッキーになっているところに、新型コロナウイルスというパンチが飛んできて、ダウンしている状況。ノックアウト寸前」と表現しました。東京女子医科大学が夏のボーナスを支給しないと報道され話題となりましたが(その後1・0ヶ月支給と回答)、この夏を乗り切っても冬のボーナスの大幅減少が危惧される状況です。
日本医師会は総額7兆5000億円、非コロナ対応の医療機関への減収補償に3?8月分で約1兆3000億円、介護事業サービスへの減収補償も1兆4000億円の要望を提出するなど医療機関・介護事業所の損失補てんを、すべての医療団体が要求しています。しかし国の支援策は、4月に決まった第一次補正分が8月になってやっと届いたばかり。第2次補正予算も不十分です。支援策はこれからのコロナ対応の病床確保や設備投資などに限られ、医療・介護従事者への慰労金も対象が限られた一時的なもの。これでは医療・介護の崩壊は食い止められません。県の対応も基本は国の枠組みに沿ったもので不十分です。
ただちに臨時国会を開催し、補正予算の予備費10兆円をすべての医療機関・介護事業所へ活用することが必要です。

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埼玉県の「新型コロナウイルス感染症の再拡大期に備えた医療体制(表1)県発表の資料より

①検査体制の強化
 発熱外来を併設するPCRセンター設置を促進。PCRセンター25か所、うち発熱外来のあるPCRセンター13か所(7/1現在)。帰国者・接触者外来と同等の機能を有する医療機関(県が認定)。85機関(7/2現在)
②病床の確保

   ベッド数   うち重症用 
 フェイズⅠ(小康期)   140   20 
 フェイズⅡ(拡大兆候期)   600   90 
 フェイズⅢ(拡大期)   1,000   150 
 フェイズⅣ(ピーク期)   1,400   200 

③宿泊療養施設の確保 1,450室
④救急搬送の体制の構築
⑤医療物資の確保  医療用マスクや防護服の支援、備蓄の調達など

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貿易自由化を見直し、農民要求実現はかる知事でこそ埼玉農林業の展望は開ける

埼玉農民連副会長 松本慎一さん

埼玉県は全域が都心から100㎞圏にあり、全国39番目の県土面積を有しています。農業生産でいえば、首都圏4千万人の消費者に安全で新鮮な食糧を供給する、一大食糧生産基地として重要な役割を果たしています。2018年でみると農業粗生産額は第18位、農家戸数8位、専業農家数10位、農業就業人口12位、米生産16位、野菜7位、小麦3位となっています。

長く続いた農業軽視の県政

埼玉農業は今でも全国・首都圏で重要な役割を果たしていますが、かつての畑県政のもとでの農政とは大きくかけ離れています。その一つは県の農林予算です。平成4年の537億円(県予算の3・8%)から、平成31年には236億円(同1・3%)に激減していることからもわかります。この間、グローバル化の名の下に、WTO締結、TPPへの参加、日米FTA、日欧EPAなどの貿易自由化がすすめられ、現在多くの農民が将来を見切り、農地を手放し、農業経営から撤退するなど、これまでにない現象が起きています。畑県政以降の土屋、上田県政は埼玉の農民にとって耐えがたいものでした。それでも土屋県政の初期にはネギ、しいたけが中国から大量輸入され、産地崩壊の危機があったとき、輸入をストップさせる「セーフガード」を発動させ、また学校給食に地元の農産物を活用させるなど一定の役割を果たしていたこともあります。

埼玉農政の弱点がさらけ出された26年降雪被害

20年間続いた畑県政のあと「少ない予算と人数で大きな成果をあげる」「儲かる農業、大規模農家の応援」など、家族農業切り捨ての自民党農政が続けられてきました。
その弊害は平成26年2月に起きた未曾有の大雪によるハウス倒壊被害(被災農家約1万5千戸、ハウス被害など440億円)で明らかになりました。私たち農民連は共産党国会議員団・県議団・地方議員といっしょに、降雪直後から被災地に入り倒壊ハウスの除去、ハウス再建の90%補助などを要求して運動しました。ところが一部の農林部幹部が「大した被害ではない」と被害実態を小さく見せようとしたため、日本共産党の柳下礼子県議が議会で「県が考えるより被害は大きく、被災農家への補助金も届いていない」と迫りました。上田知事(当時)は「末端まで届いている」など実態とかけ離れた答弁を行いましたが、後日この誤りを認め答弁を撤回しました。

現県政の下での埼玉農業再生の課題

かつて全国の中で光り輝いていた埼玉農林行政が、再び光を取り戻すことは可能なのでしょうか。そのポイントは県知事ととともに農林部の姿勢にかかっています。畑県政は発足時から地域農民や農業・農民団体の声を聞き、①大企業の買い占め、農地の買戻し事業、②埼玉県農業災害救済特別事業、③学校給食の安全性を考えた県内米・小麦の使用など数えきれない県独自の政策を具体化しました。
知事を先頭に、国の貿易自由化方針の見直しを迫り、県が農民要求実現のため全力をあげれば、再び埼玉農林業の展望は大きく開けると確信しています。

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コロナ禍で各国が輸出制限問われる日本の農業

埼玉学習会議共同代表の柳重雄氏(弁護士・元民主県政の会代表)は、学習の友8月号(2020年)で「コロナ禍の下での世界的『食糧危機』と日本の将来」と題して次のように報告しています。
「政府・農水省は1999年に『食料・農業・農村基本法』を制定し、食料自給率の向上、食料安全保障の確立をめざして取り組んできた。しかし食料自給率は向上せず、しかも日本国内で調達するだけでは足りず外国からの輸入、備蓄などで確保している。しかし安倍政権のもとでの農産物輸入大幅自由化、農業破壊の農政が続けられ、ますます危機が強まっている。そのうえコロナウイルスの感染拡大で世界的な食料危機と輸出制限が強まっている」とし、コロナ禍のもとで食糧自給率の向上は喫緊の課題であり、今こそ国・地方から農政の転換をはかるよう指摘しています。