ホンダ狭山工場閉鎖のもたらすもの4

柴田泰彦 民主県政の会特別代表
 
中国では、自動車生産・販売が今世紀に入って急速に伸びてきています。2001年には年間200万台だったものが、10年には1800万台を突破、15年には2500万台と、2位アメリカの1210万台を大きく引き離す成長を遂げています。このうち、日本はトヨタ・日産・ホンダで、販売台数全体の15・9%をシェアしています。この巨大市場へのさらなる進出競争でホンダが、他社を大きく引き離す狙いが八郷社長の方針転換から見えてきます。
 
八郷氏は就任前、中国ホンダの生産統括責任者を務めていたことから社内役員を中国ホンダ出身者で固めてきています。「八郷社長のお友達幹部体制」との声も聞かれるそうです。
 
<HONDA狭山工場閉鎖もEV化への流れの中で>
今回は狭山工場閉鎖問題をふくめ、自動車産業の大転換期を迎える中で、90%以上が中小零細企業である埼玉県経済の行方について少し考えてみたいと思います。
 
昨年夏ごろからフォルクスワーゲンなどの「ディーゼル排ガス」偽装発覚を契機に、ヨーロッパでは自動車の脱内燃機関化=EV(Electric Vehicle)化が顕著となってきました。地球温暖化防止の国際的要求とも相まって、2030年をめどに電気自動車導入をヨーロッパ各国が表明しています。
 
日本でも、日産自動車の「リーフ」をはじめ、トヨタのPHV「プリウス」など、EVやPHVの流れが急速に展開し始めました。とりわけアジア最大の自動車市場中国が、2019年から各メーカーに対し、EV車などを現地生産するよう規制をかける方針を示したこともこの流れを促進しています。
インサイト(HV車)の国内販売が伸び悩む中、中国HONDAで力をつけてきた八郷社長体制の下で、国内需要の低迷による販売不振を、中国を拠点とするEV生産体制の強化で競合他社を引き離す戦略。今回のホンダ狭山工場の閉鎖問題もこうした自動車業界の世界的流れの中で起きたのではないでしょうか。
 
<EV化で大きく変わる自動車産業の構造>
いずれにしても自動車産業のこうした大転換は、第二の産業革命ともいわれ、日本の産業構造にも大きな転換が迫られてくるものと思います。なぜなら、EV車にはエンジンがありません。クラッチもありません。現在の内燃機関の自動車を構成する部品は3万点もあるのに、EV車はモーターを中心に約半数の部品点数で構成されるといいます。すなわち、従来の自動車生産にぶら下がっていた中小下請けの部品メーカーが大きな打撃を受けるということです。

<県内中小企業の業態転換をエネルギー政策でソフトランディング>
県産業労働部産業労働政策課作成の「埼玉県経済を取り巻く現状」というデータをのぞいてみました。いずれもH26年の数字です。県内総生産額は名目で20兆9144億円。東京・大阪・愛知・神奈川についで全国第5位、GDPに占める割合は4・1%となっています。製造品出荷額3兆8534億円のうち、上位が、食料品6127億円、化学5190億円、輸送機械4246億円となっています。3位の輸送機械は、埼玉の場合ほとんどが自動車部品製造です。EV化に伴ってここに大きな変化が出てくるわけです。例えばエンジンシリンダーのピストンリングをつくっている企業などはいらなくなってしまうのです。EV化に伴う産業構造の変化の中で、従来の仕事を失うことになる県内中小企業の業態転換をどのようにソフトランディングさせていくのかは県内経済を考えるうえで大きな課題ではないでしょうか。
 
福島原発事故以来「脱原発」、自然再生エネルギーの活用が進められています。こうした取り組みを本格的に展開する絶好の機会だと思うのです。市町村単位程度の限られたエリア内での小規模な発送電(ソーラー発電、マイクロ火力発電、バイオ燃料発電、地熱発電、風力発電などその地域の地勢に応じた)を、地元で担う事業への転換などは検討の価値があるのではないかと思います。(最終回)